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米陸軍のマルチ・ドメイン作戦



マルチ・ドメイン作戦とは

マルチ・ドメイン作戦は、中露の広範多様なA2/AD戦略に対抗するため、陸軍の戦い方に変革をもたらすものであり、主に陸上で作戦を行ってきた陸軍が、海、空、宇宙、サイバーの領域においてもその役割を拡大し、A2/AD環境下において、自律的で他軍種に対しても補完的な存在になること目指している。


A2/AD(Anti-Access/Area Denial)とは、接近阻止・領域拒否のことで、中国軍の海上の軍事戦略に対する名称である。中国は、1982年の鄧小平の時代に第一列島線(樺太~日本~沖縄~フィリピン~ボルネオ島)及び第二列島線(伊豆諸島~小笠原諸島~グアム・サイパン~パプアニューギニア)を抵抗線として重視した計画を作成した。



同コンセプトは、第一列島線の内側を主防御海域とする近海防御、第二列島線までの海域を前方防御海域とする遠海防御とする二つからなるものであった。そして、現在では第三列島線(アリューシャン列島~ハワイ~サモア~ニュージーランド)を設定しているされる。

第一列島線内は既に多くの中国のミサイル(地対艦、地対空)が配備され、レーダー網が構成されている。また、潜水艦、戦闘機、爆撃機の圏内にありこの中で作戦することは米軍にとっても非常に大きなリスクを伴う。第二列島線は射程1750km~の空母キラー(DFー21)、射程3000~5000kmのグアムキラー(DF-26)の圏内であるが現在のところ直接の脅威はミサイルのみとなる。陸軍は海・空軍に比し機動力が低く、主要火器の射程も短い。陸軍のいう“A2/ADの圏内”というのは第一列島線以内を指していると言っていいだろう。


他軍種を補完するというのはある意味で陸軍生き残り(予算取り)の苦肉の策だ。従来、陸軍は陸上で大規模な戦闘を行う組織。過去の例でいえば1990~1991年の湾岸戦争における砂漠の嵐作戦などイメージすると分かりやすい。作戦は米軍を主力とする国連軍により実行された。海・空軍は大規模な陸軍の戦力投射を数か月にわたり支援し、陸上からの攻撃が開始する前には空軍による大規模かつ周到な空爆が行われた。海軍は沿岸部からトマホークによる援護射撃、海兵隊は南東方向から着上陸作戦をおこない陽動に徹した。陸軍が他国軍と戦う時、常に陸軍が主役だったのだ。

他方、中国のA2/ADに対抗するとなるとそうはいかない。特に、想定される主戦場の南西方面のフロントラインは海と島である。「陸上において戦う」という陸軍のアイデンティティーに依拠すればどうしても海兵隊、海軍、空軍を支援する立場にならざるを得ない。


マルチ・ドメイン作戦の特徴

①米軍とパートナー部隊が、如何にして時間と物理的空間を超えて領域、環境、機能を横断する能力・方法を編成、実践、採用し、武力紛争に至らない作戦で敵と競争し、あるいは必要に応じて敵を撃破するかの戦略・戦術的な構想

②陸・空・海・宇宙・サイバー領域を横断した影響力を行使し、領域間の相互作用にかかる相乗効果を発揮する戦い方


①②を具体的に総括すればパートナー部隊と協力して、陸、海、空、宇宙及びサイバーの領域において、敵と競争・抑止し、抑止が崩れたならば、陸軍、海軍、空軍、海兵隊が同一のコモン・オペレーショナル・ピクチャーをリアルタイムで共有、相互にターゲティングを補完・打撃することにより勝利を獲得する。といったところだろうか。異なる領域でそれぞれ作戦をしてきた各軍にとってはドクトリンはさることながら、装備、運用、通信、文化などシンクロさせるには莫大な予算と協同訓練が必要になる。他国軍との連携となるとこれ以上に難しい。よって基本的には同一の作戦を行うというよりも、連携して作戦を行う程度にとどまるだろう。


陸軍マルチ・ドメイン・フォーメーション

2021年3月16日、米陸軍参謀長のマッコンビル大将は、上記を補完するものとして「陸軍マルチ・ドメイン・フォーメーション」を発表している。

同ホワイトペーパーは、敵が統合軍に対して、質的・量的に優越する中、戦力の適用において革新・創造・独創を要求される転換点にいる認識の下、抑止の破綻や米国の重大な利益に対するリスクを低減すべく、2035年までに近代化を遂げ、継続的な大規模戦闘作戦において敵対勢力に対する優位性を確立するものだ。


最強であった米軍にとって、質的・量的に優越する相手というのは史上初めてであり、従来からの陸軍戦略の転換点にいるという認識は非常に興味深い。2021年10月11日のAUSA(陸軍年次総会)においてワーマス陸軍長官も同様のことを述べていた。転換点に置かれている主な理由は「①米国本土が攻撃される可能性」「②航空優勢を獲得できない状況での作戦」「③戦力投射に時間をかける余裕はない」とのことだ。

①は恐らく陸軍として出来ることはあまりない。②の航空優勢を獲得できない状況での作戦は一体どうなるのだろう。従来の陸軍作戦教範では航空優勢は必須。流石に米軍に旧日本軍のような無茶な戦いは出来ないはずだ。③は同盟国・パートナー国に部隊をあらかじめ配備しておくことで戦力投射の時間を局限し、状況に即応できるよう準備するのだろう。


コンセプト

①明確な敵と技術の発展に対応するための陸軍の変革を規定し、次の戦いに勝利するために必要な射撃、速度及び最先端技術の収れんを統合軍に提供。

②ダイナミックな機動展開と競争下における陸軍戦力の配備はA2/ADを突破し、クロスドメインの効果を発揮することで、抑止、エスカレーションの低減または緒戦における勝利に向けた機会及びオプションを提供。


運用構想

【競争段階(Competition)】

〇目 的

 政治目標を達成するための相対的な能力と配備上の優位の獲得

〇実施事項

・陸軍ネットワークの構成

・能力の誇示

・新しい能力の開発


【危機段階(Crisis)】

〇目 的

 烈度を低減させ、緒戦の帰趨を形成のための幅広い対応オプションを提供

〇実施事項

・全ドメインでのコンタクトの維持

・敵の利益に対するリスクの賦課

・悪意ある活動に対するコストの賦課

・任務保証

・敵のA2/AD内での持続的活動

・紛争への移行の円滑化


【紛争段階(Conflict)】

〇目 的

 機動的な統合軍を可能にし、すべてのドメインの成果を確保し、情報戦から大規模戦闘作戦において勝利を収める。

〇実施事項

・戦闘の継続

戦場の拡大

・クロスドメインによる後方打撃

・意志決定の優位の獲得/維持

・優越の創出

・大規模戦闘における勝利


紛争段階の「後方打撃」は少し気になるところ。一口に後方といっても内陸部の都市から作戦上の後方である港や飛行場までの幅がある。前者は攻撃すれば全面戦争は免れず、戦いは泥沼と化すだろう。よって基本的には非物理的な打撃手段であるサイバー攻撃や宇宙アセットの妨害、トマホークなどによる局地的な軍事目標の破壊に限られるのだろう。


戦い方

〇敵A2/AD圏内で行動する「インサイド・フォース」と戦略・戦域レベルで緊要地形等を確保する「アウトサイド・フォース」により、戦域を拡大(この際、インサイド・フォースは前方で分散して残存、打撃と襲撃により回廊を開き、敵の後続部隊を阻止)

〇後方の敵の地上、航空、海上戦力と交戦し、破壊するための短距離から長距離の精密火力の保持

〇MDTFによる敵A2/AD圏内の精密火力部隊により、統合任務部隊の行動の自由を確保

〇陸上ネットワークの構築(競争段階における同盟及びパートナー国との関係構築


インサイド・フォースは恐らく下記のマルチ・ドメイン・タスク・フォースを基幹とした部隊のことだ。A2/AD、即ち、第一列島線以内で行動し、分散・残存。併せて、長距離精密火力により、統合軍を支援する。陸軍が2023年に配備を計画している、PrSM(射程1000km)、中距離ミサイルLRHW(射程2775km)を南西諸島やフィリピンのルソン島に展開するということだろう。

アウト・サイドフォースはインサイド・フォース以外の部隊ともとれる。南西正面でいえば、第二列島線以南の島や国に展開し後方支援を行いつつ、じ後の大規模陸上作戦に備ええう部隊か。


マルチ・ドメイン・タスク・フォース(MDTF)

〇マルチ・ドメイン作戦を実行する中核となる部隊であり、近代化の中心的存在。

〇MDTFは、戦域レベルの機動部隊として、A2/ADネットワークに対し、全てのドメインにおいて正確な効果と精密火力を同期させ、統合部隊の行動の自由を確保。

〇統合部隊指揮官の要求に応じ編組する。


※MDTFは2017年頃、米本土に配備され様々な演習に参加しその能力を構築している。MDTFは1つ目を米本土、2つ目を2021年夏頃、欧州(ドイツ)、3つ目を2022年度にインド太平洋地域に、4つ目を北極にも配備するといわれている。


MDTFは2021年11月現在でインド・太平洋には配備されていない。過去には2021年に日本に配備したいなどの情報も流れたが実現には至っていないということだ。いずれにしても、南西諸島に配備しないことには陸軍の作戦全般が成立しなくなる。米軍基地が新しくできるか、はたまた自衛隊と共同使用になるか分からないが時間の問題だろう。

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