中国について「この数十年で、軍が猛烈な勢いで近代化を進めている」と警戒感を示した。「国防総省は、根本的で前例のないアジアへのシフトを実行している」とも語った。
その具体策として、インド太平洋地域における米兵の迅速な展開や、軍事、補給施設の建設などに重点的な投資を行っていると説明。
何か既視感があると思ったが、そう2011年にオバマ大統領が打ち出した「アジア・太平洋地域へのリバランス」である。
当時「斬新で、コストが低く、フットプリントの少ないプレゼンス」をうたい、日本、韓国、オーストラリアと協力して中国に対抗していくというコンセプトであったが、今ほどの軍事的切迫感は無かった。
米国が中国をいわゆる競争相手として認識し始めてきたのはハーバード大学の政治学者のグレアム・アリソン教授が2017『米中戦争前夜』にてトゥキディディスの罠を提唱して以降と認識している。いずれにしても米国が冷戦以降続けてきた「世界の警察」としての役割を修正していくことの表明であった。
オバマ大統領の表明から、確かに米国のインド・太平洋に対するコミットメントは増加した。
トランプ政権時には2018年の米統合軍の太平洋軍がインド・太平洋陸軍に改名したり、バイデン政権移行は、2021年の3月の日米「2+2」を発端として「台湾海峡の平和と安定の重要性」についてたびたび強調するなど取り組みは先鋭化している。
軍事面では2018年、米海兵隊は対中国を念頭にこれまでの着上陸作戦のコンセプトを180°変更し、事前に中国のA2ADの内部で小部隊を分散展開しこれを抑止・対処するものに変更。装備面では戦車や榴弾砲の大部分を削減し、代わりに機動性の高い船を大量に調達し、MLR(海兵沿岸連隊)を編成するなど大規模な改革を推進している。陸軍、空軍の他の軍種しかり対中作戦を重視していることは間違いない。
本題のこのオースティン長官の発言が何を意味しているか。
「根本的で前例のないアジアへのシフトを実行している」と現在進行系で発言しているということは前述の宣言政策や海兵隊等のコンセプトやアセットのシフトも含まれているはずだ。
協同訓練の観点でもここ数年で中国を念頭においたものの規模・質・回数ともに拡大している。米英豪のAUCUS、日米豪印のQUADの枠組みも新たに増えている。
戦略レベルの同盟や準同盟・部隊配備の追加、作戦レベルのコンセプトの修正や訓練の増加を踏まえると、今般の長官の発言はこれまでの延長としてのシフトであることが予想できる。
今後は、同盟国や同志国との協力を強化しなかがら前方からハワイなどの縦深にわたり部隊の配備を強化してより実効性ある対中態勢を形成していくのではないだろうか。
Comments